蔵本由紀著「非線形科学 (集英社新書 408G)」
2007-12-07


ASAHIネット([URL]のjouwa/salonからホットコーナー([URL] )に転載したものから。
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[URL]
非線形科学、失敗学
で言及した
[URL]
蔵本由紀著「非線形科学 (集英社新書 408G)」
を読んだ。やはり、吉村さんが面白いという以上読まねばと思って読んだら、
なるほど面白い。これも蒙を啓かれた。

 第1章は、散逸構造の話をなんとかわかってもらおうと、日常のありふれた
現象を使って苦心して説明している。
 散逸構造。崩壊しつつも、ある状態を保つ、あるいは新たなものを創造する
という動的な均衡。これ、
[URL]
福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」
と同じ視点。こういう視点を持つと日常も違って新鮮に見えるだろう。

 第2章からいろいろな現象を採り上げて話が進むが、カルマン渦、レイリー・
ベナール対流は面白い現象。ローレンツ・モデルが出てくるあたりからは、も
うすっかり夢中。
 第3章「パターンの形成」は、個人的には本書の白眉。実に美しい化学反応
が出てくる。3歩歩くと忘れるおれが、何度も何度も復唱してやっと覚えた。

 じゃ、言ってみろ。
 ええと、BZ反応。
 バカー。省略せずにちゃんと言え。
 ええと、何だっけ? なんとかスキー反応。
 バカー。ベルーソフ・ジャボチンスキー反応だ。

 この反応は、発見当時は、当時の化学の常識からしてあり得ない反応だった
ので、ベルーソフは論文掲載拒否ばかりで、以後、失意のままの人生。旧ソ連
だったので西側でもこの反応は知られぬまま。それをジャボチンスキーが再現
して国際会議で西側に紹介したことから、俄然注目を集める。
 名前のインパクトもすごい、掲載されているの写真を見ると、不思議かつ美
しい。

 第4章「リズムと同期」も、ほほぉという話がいくつかあった。例によって
もう忘れたが。というか、もう、ベルーソフ・ジャボチンスキー反応しか覚え
てない。\(^O^)/
 第5章「カオスの世界」、第6章「ゆらぐ自然」あたりになると、
[URL]
非線形科学、失敗学
で書いたように、すでにあれこれ聞きかじり、読みかじった世界なので、個人
的には前半のほうが面白い本だった。

 最後のエピローグは、非線形科学の位置づけの話になって、思うことがあっ
た。
 このエピローグは、プロローグで自ら書いた非線形科学とは何だという問い
への力強い答になっている。
 たとえば物理学は、素粒子物理学のようにどんどんミクロな世界を追求して
きたが、それだけでは観えてこない世界がある。マクロで複雑なものをそのマ
クロなレベルで丸ごととらえて理解する方法があるのではないか。根っこに素
粒子物理学のようなミクロな根本原理の世界があって、そこから枝分かれして
さまざまな応用の大枝小枝が広がる樹木のイメージを使って、非線形科学は枝
を横に貫くような横断的なものであると、著者は力強く宣言している。
 これ、我々のコンピュータのソフト屋の領域でも、世界のモデル化で同じ話
にぶち当たる。オントロジーのようなある種哲学的な世界認識・記述方法まで
行かなくても、業界のみんなにも馴染み深いオブジェクト指向のレベルでもそ
う。
 たとえば、1つの根源的クラスから派生させていろんなクラスが作り作られ
だが、実際にソフトを作っていると、その派生の木を横に貫くような、派生の
親子関係に縛られないような横断的なものが必要になる。

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