マイクル・クライトン「恐怖の存在」
2005-12-17


ASAHIネット([URL]のjouwa/salonからホットコーナー([URL] )に転載したものから。
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 ブログで、マイクル・クライトンの
[URL]
恐怖の存在 (上)
[URL]
恐怖の存在 (下)
のところに、たまさんからコメントが付いていたので、補足。
--- ここから ---
_ たま@無精庵 ― 2005-12-08T22:36:12+09:00
クライトンの新作ですけど、環境問題に踏み込んだのは拙かったんじゃないか
と思います。つまりクライトンが言っていることって、実はアメリカ政府が環
境問題封じ込めのために国内で流布している意見なんじゃないか、それにクラ
イトンがまんまと乗っかったんじゃないか、ということなんですけどね。
社会派とは言っても、クライトンの掲げる社会は、アメリカ万歳社会ですし。

--- ここまで ---

 これ、下巻にある訳者の酒井昭伸さんの訳者あとがきによると、アメリカで
もあれこれ議論になったんだそうです。なにせ、「いまの世界の良識派がいう
環境問題の常識なんて、嘘が多いんじゃないか」というのが、表面的に読める
主張ですから。
 もちろん、クライトンの狙いは別のところにあって、環境問題は読者に与え
た食いつきのいい餌なんです。
 その辺の事情は、酒井昭伸さんのあとがきに詳しく書いてあるのでそちらを
読んでください。
 一部だけ書くと、かつての軍産複合体に代わって、PLMがアメリカ社会を支
配している。PLMは、政治、法曹、メディアの略です。そして、PLMが環境問題
をネタに恐怖を煽って、科学的に不確かなものまで断定的事実として報道して
いる現実。これはまずいだろうと。
 環境をネタにすると、研究者も研究費を取れるし、政治家もハリウッドのス
ター連中もいいイメージができるし(トヨタのプリウスに乗るのが一番ウケが
いいらしい)、マスコミも視聴率も取れるし、広告も取れて儲けられる。
 そのイメージ、情報操作の中で、トータルにものを考えられない、ほんとの
ことが言えなくなってくる一種の催眠状態、集団ヒステリー状態じゃないか。
これはまずいんじゃないかというのが、本書が語っていることです。
 日本だと健康をネタに、フジテレビ系のあるあるやら、TBSのスパスパ人間
学やら、テレ朝系のたけしの知らないと怖い家庭の医学みたいな、あの手の番
組で、科学的にはけっこういい加減なことまで極大化して恐怖や効用を煽って
ますよね。
 それで、化粧品、薬品、食品のメーカーやらマスコミやらが、みんな儲けら
れる状態になってるわけで、タバコは百歩譲って百害があっても一利はあるな
どといったら袋叩きですもんね。

 ぼくも日経サイエンスなども読んでますけど、環境問題は科学的には仮説、
留保つきで断定的な話にはなってないと思います。
 だから、左右どちらか知らないけど、片方に行き過ぎたのを中立に戻そうと
いう感じですね。アメリカの主張そのものより、もう少し真ん中に思いますね。

 本書にも、地球温暖化を裏付けない、二酸化炭素犯人説を裏付けない、いろ
んなデータが出てきます。
 それらから演繹される主張は、とても説得力があります。ハリウッド俳優も
登場人物として出てくるけど、そいつらの環境問題の知識が科学的にでたらめ
なマスコミによってどれほど歪められているかを象徴的に描いていて、なかな
か笑えます。もちろん、他の登場人物も最初は主人公の主張に懐疑的なんです
が、だんだん常識を疑ってもっと冷静にものをみるようになっていきます。い
わゆる科学精神の芽生えですね。

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